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チスイコウモリのおねーさん ある日の帰り道。高等部のお馴染みの三人組が並んで歩いていた。 他愛のない会話の中、ふっと思い出したように人間の少年が隣を歩く蝙蝠人の少女に質問する。 「…あ。なあ朱美、チスイコウモリっているじゃん?」 「な、なによ藪から棒に。あたしオオコウモリよ?」 蜥蜴人の少年もはっと思い出したような顔を見せて、卓の頭越しに質問に加わる。 「わかってるってー。そうじゃなくてチスイコウモリっているよなー?」 「いるわね。あたしの親戚にもいるわよ」 「…ってええっ!?」 「いるのかよ!?」 二人の意外な驚きように朱美も少し驚きながら、二人に説明する。 「今は結婚して名字変わってるんだけどね。 昔から親戚で集まるときはよく遊んでもらったわ。とっても綺麗な人なのよ」 「…へぇー」 卓はどこか困ったような顔をしていた。利里はそんな卓の様子になんて気付かない。 「その人って実際噛みついて血を吸ったりす」 「ばっおまっ!?」 利里の純粋すぎる質問を卓は大声で止める。が、遅すぎた。内容はほとんど朱美に伝わってしまっただろう。 「お前もうちょっと歯に衣着せるとか!!」 「へ?は?歯に服着せてどうすんだー?」 いつもの調子で純粋すぎる利里。彼の欠点であり、そして魅力でもある部分だ。 気の置けない仲間である三人にとっては彼のこんな発言は日常茶飯事。朱美もそう気にすることはなかった。 「お前な……もういい。ごめんな朱美」 「全然気にしてないわよ」 「…で、実際のとこどうなん? 俺も気になってたとこなんだが」 朱美はあははと軽く笑ってみせる。 「やだぁ、しないわよそんなことー。ドラキュラ先生じゃあるまいしー」 「いや伯爵もしないと思うが……あ、でもトマトジュースは好きだったりして」 「あ、実はそれ正解。なんか特製トマトジュースってやついつも飲んでるの」 「…そっかートマトジュースかー」 黙っていた利里が不意に口を開く。 「それ本当はトマトジュースじゃなくt」 「あーあーあーちょっと止まろーなー利里君!!ちょっとあっち行ってみよーな!」 卓が利里の両肩をズンズンと押して朱美から離れた。 朱美は頭にクエスチョンマークを浮かべながらそれを見送った。 三人は確かに、何を言っても大抵問題ないような仲ではあるが、 純粋にまかせて無神経な発言を言いたい放題な環境は利里自身のためによろしくない。卓はそう考えた。 朱美に聞こえないように顔を近づけて小声だ。 「お前な!朱美の親戚のお姉さんだってんだからちょっとは気ぃ使え!」 「でも朱美に聞こうって言いだしたのは卓だったぞー」 「う…それは悪かったよ。俺だってまさか親戚にいるとは思わなかったんだ」 「あぁ、びっくりだよなー」 「もうこの話は切り上げよう。利里も余計なことは言うなよ」 「う…おぉ、わかったぞー」 二人で元の位置に戻ると、朱美は少しニヤニヤしている。 「男と男のお付き合いはおしまい?」 「おまっ!! …うん、まあ…うん」 朱美の言葉は表情と相まって妙な意味合いにとれるが、言葉は間違ってないのだから仕方ない。 「どこまで話してたんだっけ」 話を切り上げようとしていた矢先、朱美から続きの言葉が出て、卓は慌てて止めようとする。 「いやっ!? もう十分だありがとう!」 疑わしげな眼差しで二人を見る朱美。 「お二人さんねぇ…チスイコウモリにおっかない印象もってるでしょ」 「えっいやっそんなことないって!」 そんなことない。最初に聞いたのは純粋に好奇心から。 話を打ち切ろうとしたのは予想外に朱美に近い人物の話になってしまい、その人に悪い気がするからだ。 「実際は全然そんなことないのよ。あたしたち獣人が普通の動物だったずぅっと昔からも 噛みついてチューチュー血を吸うなんてことはなかったの」 「え?そうなのかー?じゃあどうやって?」 「ちょおまっ!?」 構わず続ける朱美と、空気を読まない利里の質問に、卓は内心やれやれとため息をついた。 朱美は得意顔で講義を続ける。 「いい?チスイコウモリっていうのはね。寝ている動物に静かに近づいて、皮膚近くの血管を探して、 剃刀みたいに鋭い歯でちょこっと噛んで傷をつけるの。寝てると気付かないくらい、全然痛くないのよ」 「…ふーん」 卓も本格的に朱美の講義に耳を傾けた。元々聞きたかったことではあるのだ。 「で、傷口から出た血をなめさせてもらうってわけ。ね、恐くないでしょ?」 「はー…ちょっと傷かー……」 利里は少々ポカンとした様子でそれを聞いていた。その光景がいまひとつ想像できないのだ。 なぜか。それは彼が蜥蜴人だからである。彼ら蜥蜴人は生まれつき身体の大部分が硬い鱗で覆われており、 それ以外の部分も人間などよりはるかに丈夫だ。故に、彼らが小さな傷を受けて出血すること等はほとんどない。 転んでもへっちゃらだし、包丁で指先を切るなんてこともない。まあ、さすがに大剣で斬りかかられればただではすまないが。 ともかく、小さく噛まれて血が出るという状況は、蜥蜴人の彼にとっては完全に他人事だった。 「でもそれだとすぐ血が止まっちゃわないか?」 一方で、鱗も体毛もない人間、卓は極自然に浮かんだ質問を投げかける。 「大丈夫♪ なめるときの唾液には血を固まらなくする成分が含まれてて、傷口をなめてる限り血は止まらないの。 それに皮膚感覚を麻痺させる成分もあるから相手は気付かないで眠ったまんま♪」 「……へぇ…」 なぜか上機嫌な朱美と、対照的にトーンが下がる卓。 「朝に残るのは小さい傷だけ。少し血が減ったなんて誰も気付かないでしょ? 誰にも気付かれず迷惑もかけず、ちょこっと血を貰ってはいさよなら。明日もまた来るよー、ってね♪」 「………」 その様子を、卓はありありと想像していた。 静寂の夜。深い眠りについている自分に忍び寄る影。そいつは腕の一部に狙いをつけ、シュッと小さな傷を付ける。 傷口に生まれる真っ赤な血の球。球は少しずつ大きくなり、やがて一筋の跡を残して腕を流れる。 その傷口を舐める。舐め続ける影。いつまでも止まらない血。少しずつ、確実に失われていく、血。 「……………」 恐えええぇぇ!! むしろ怖ええええぇぇぇぇ!! 彼の素直な感想だった。 何だよ血が止まらなくなるってええぇ! 気付かないってすげータチ悪いだろーがああぁぁ! 「でも毎日来られたら血が足りなくなるんじゃないかー?」 利里の純粋な質問に、朱美は笑って答える。 「だーいじょーぶよー。利里君の手の平に乗るくらい小さかったんだから。貰うのはホントにちょこっとよ」 「そっかー。じゃー恐くないなー」 今は人間サイズじゃねーかあああぁぁ!! 楽しげに笑う二人に、卓は内心激しく突っ込みを入れるのだった。 そんな卓を尻目に、話はコウモリの生態からその人本人について移っていった。 「あたしもちっちゃい頃、会う前は誤解しててちょっと恐かったんだけどね。 本人に会ったら全然気にならなくなったわ。とってもいい人よ」 「へぇーそうかー。結婚してるんだっけ。旦那さんもコウモリなのかー?」 「ううん。旦那さんは人間なの」 「おぉ!そっかそっかー! よかったな卓ー!」 利里は心底嬉しそうな様子で、反対側で何か考え込んでいた卓の背中をバシンと叩く。 「ぶっ!? へ!? なに?なんだ利里?」 一人考え込んでいて話を全く聞いていなかった卓は、突然の衝撃に目を白黒させた。 「だからーそのコウモリお姉さんの旦那さんは人間なんだってさ! よかったな卓!」 「えっちょっ何言ってるのよ利里君!」 朱美があたふたと利里の言葉を否定しようとする。 パタパタと揺れる翼膜が赤みを帯びる。人間が顔を赤くするのと同じ原理だ。 そんな朱美の様子を見て、遅れて卓も利里の言う意味を理解した。途端に顔がかっと赤くなる。 「ばっ、ちょっ何言ってんだ利里!」 「やっやめてよ利里君!」 「はははー二人とも息ぴったりだなー」 稀ではあるが、利里もときには人をからかったりする。 同じように真っ赤になりながら全力で否定するお似合いの二人を、利里は笑いながら満足げに眺めていた。 やがて、朱美が別れる駅が近付く。 卓の懸念はいつの間にやらすっかり忘れ去られていた。 「あっ! そういえば!」 朱美が思い出した様に声を上げる。 「来月なんだけど、ちょうど近くに来る用事があるみたい。折角だから二人に紹介するわよ。きっと仲良くなれるわ」 「おー!そりゃ楽しみだー」 「なんというベストタイミング」 「旦那さんも一緒にね」 「旦那さんはどんな人なんだー?」 「んー?ちょっと貧血気味」 目前ある駅に電車が滑り込むのが見える。 「あっあたし乗る電車だ!じゃ行くわ!ばいばい、二人とも!」 「おっ、じゃまた明日ー」 「じゃーなー」 改札へ走っていく朱美を軽く手を上げて二人は見送った。 「………あれ?」 何かひっかかるものは気のせいだろう。きっと。たぶん。おそらく…。 おわり
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「コーストガード」 【軍人、上半身裸】 筋肉度 ★★ 腹打ち度 ★★★ 軍人度 ★★★★★ 韓国映画。始まって13分あたりのボクシングシーンは必見。 海上ボクシング。 海の上に有刺鉄線のリングを作りスパーリングをしている。 やせた男たちだが、軍服と使い古したグローブと、 海の上と言うのがかなり高得点。 33分あたりにヒロインのアニキと町の若者にボコボコにされる シーンがある。腹殴られ、ボディーに膝を入れられる。 なかなかいい角度で入っているが、アップで無いのが残念。 1 22くらいに真夜中、波打ち際で暗視カメラをつけながらボクシングをする シーンもあるが、かなり暗い。 軍人が好きな人にはいいかも。訓練とかは多い。 戻る 【用語説明】 「ボクシング」 ボクシングの試合、ボクシングスタイルのファイトがある。 「ムエタイ」 ムエタイ・キックボクシングスタイルのファイトがある。 「ストリート」 路上の喧嘩、ストリートファイトがある。 「軍人」 軍人のファイト、トレーニングがある。 「リンチ」 主人公などが集団にやられてるシーンがある。 「一方的」 主人公などが一方的にやられるシーンがある。 「上半身裸」 どちらかが上半身裸になっているファイトがある。 「拷問」 縄や手錠で体を拘束され拷問をかけられるシーンがある。 「人質」 主人公が人質を取られている設定がある。 「八百長」 主人公が八百長試合をするシーンがある。 「賭けファイト」金を掛けたファイトがある。 「トレーニング」主人公などがトレーニングしているシーンがある。
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【作品名】パンチアウト 【ジャンル】アクションゲーム 【先鋒】BALD BULL 【次鋒】DON FLAMENCO 【中堅】MR.SANDMAN 【副将】SUPER MACHO MAN 【大将】MIKE TYSON 【先鋒~大将まで共通】 【属性】ヘビー級選手 【大きさ】成人男性より二回り大きい人間 【攻撃力】ボクシングのヘビー級選手並み 【防御力】ボクシングのヘビー級選手並み 【素早さ】ボクシングのヘビー級選手並み vol.56 864 vol.56 864 格無しさん sage 2008/04/23(水) 20 57 59 【作品名】パンチアウト 【ジャンル】アクションゲーム 【先鋒】BALD BULL 【次鋒】DON FLAMENCO 【中堅】MR.SANDMAN 【副将】SUPER MACHO MAN 【大将】MIKE TYSON 【先鋒~大将まで共通】 【属性】ヘビー級選手 【大きさ】成人男性より二回り大きい人間 【攻撃力】ボクシングのヘビー級選手並み 【防御力】ボクシングのヘビー級選手並み 【素早さ】ボクシングのヘビー級選手並み カラテカに勝てるのでそれより下にはほぼ全勝できる 燃えプロやレッドカードは人間越えの防御を持っているので消耗負けする 燃えろ!! プロ野球>パンチアウト>カラテカ
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『決闘』会場の片隅に位置するとある草原地帯。 突然、そこの地面の一部が大きく盛り上がったかと思うと…… 「チュチューン!」 ……人間の大人程の大きさがある巨大なモグラが地面から顔を出したのだった。 体色は明るいオレンジ。 鼻先は花のようになっており、 肩の部分には鉤爪状の部位が、 スコップ状の手には人間のような指があるなど、 明らかに普通のモグラではなかった。 彼の名は、モグラ獣人。 ただの巨大モグラではなく、動植物に人間並みの知能を移植する事によって生み出される『獣人』というカテゴリーに属する怪人である。 彼はかつて、世界征服を企む秘密結社の一つ『ゲドン』に所属していたのだが……… 任務に失敗して処刑されかかったところをゲドンと敵対する『仮面ライダーアマゾン』によって助けられた事で、アマゾンの『トモダチ』となったのである。 「はぁ~………よっこいせ、と」 モグラ獣人は地面から這い出ると、頭上の空で静かに輝く満月を眺めだした。 「……なんで俺、生きてんだろうなぁ?」 月を眺めながら、モグラ獣人はふと先程から頭によぎる疑問をポツリと呟いた。 記憶が正しければ、自分はゲドン壊滅後に活動を開始した新たな組織『ガランダー帝国』のキノコ獣人による殺人カビで死んだ筈なのだ。 だというのに、五体満足の状態で『冥界の魔王』なる者が主催する『決闘』という名の『殺し合い』会場にいる。 それがモグラ獣人には不思議でならなかった。 死んだと思ったのは自分の気のせいで、アマゾンが殺人カビの解毒剤を飲ませてくれたのか? いや、あの体から『命』が抜け出していくような感覚は、絶対に気のせいなんかではない。 ならば何故、自分は無事なのか? そして何故、『決闘』というイベントに参加させられているのか? ひょっとしたら、ここは悪いことをした人間が死んだ後に行くという『地獄』と呼ばれる場所かもしれない。 自分はアマゾンの『トモダチ』だったけど、ゲドンの一員として散々悪いことをしてきたから『地獄』に落とされたのかも……。 「う~ん……」 夜空に輝く満月を眺めながらモグラ獣人は考えを巡らせるが、情報が少ない現状では答えなど思い付くはずも無く…… 「………はぁ~」 モグラ獣人は深いため息を漏らしたのだった。 その時…… 「も……モグラ怪獣!?」 「……チュチューン?」 人間の声が聞こえた。 若い女の声だ。 振り向くと、いつの間にかモグラ獣人の背後に頭に黄色いカチューシャを装着し、水色を基調にしたセーラー服を着た高校生くらいの少女が佇んでいた。 その少女はモグラ獣人を見ながら驚いていると共に、好奇心旺盛な幼い子供のように目をキラキラと輝かせていた。 「えっ!?嘘!?本物!?本物の怪獣!?」 少女はいかにも興奮している様子でモグラ獣人に抱きつき、モグラ獣人の体をあちこち触り始めたのだ。 「チュチューン!?」 「凄い!着ぐるみじゃないわ!!本当に生きてる!!」 「チュチューン!!」 「肌は結構すべすべしてるわね……鼻が花の形って洒落か何か?」 「チュチューン!お、おい!止めてくれよ~!!」 「……喋ったぁぁぁ!!?」 その後、少女が落ち着くまでの30分間………モグラ獣人は少女に身体中をまさぐられたのだった。 ☆☆☆ 「チュチューン………」 少女に身体中を触られて、モグラ獣人はぐったりとしていたが、当の少女の方は何故だか元気いっぱいになっていた。 「いやぁ~ゴメンね!まさかこんな所で本物の怪獣に会えるなんて思ってなくて、つい興奮しちゃって………あ、私はSOS団団長の涼宮ハルヒよ!アンタはなんて言うの?」 少女……ハルヒは全く悪びれる様子を見せずに自己紹介すると、モグラ獣人にも自己紹介を促した。 「……俺はモグラ獣人だ。というか、俺は『怪獣』じゃなくて『獣人』なんだけど……?」 「『怪獣』も『獣人』も大して変わらないわよ。要するに、体の大きさが『ビル並み』か『人間並み』かの違いじゃない。それより、聞きたい事があるんだけど………」 モグラ獣人の意見を一蹴りして、ハルヒは強引に情報交換を始めた。 ハルヒの話す『SOS団』なるグループとその仲間達との他愛ない日々の話を聞きながら、モグラ獣人は自然に『楽しそうだな……』と思った。 次に、モグラ獣人がアマゾンライダーやゲドン、そしてガランダー帝国の話をすると、ハルヒは『世界征服を企む悪の組織にそれと戦うヒーロー!?まるでテレビの特撮番組みたいじゃない!!』と、幼子のように目を輝かせながら興奮していた。 しかし、モグラ獣人が自身の生死やそれに関するこの場での憶測を語ると……流石のハルヒも神妙な表情を浮かべたのだった。 「えっと……もしかして、不味い事聞いちゃったかしら?」 「……いや、大丈夫だよ。本当のところは俺にもよくわからないから」 『自分は地獄に落ちたのかもしれない』と語るモグラ獣人の姿はなんだかとても悲しそうで……ハルヒは胸が締め付けられるような感覚があった。 「あぁもう……そんな辛気臭い顔しないの!断言しても良いけど、ここは『地獄』でも『死後の世界』なんかでもないわ!」 「……なんでそう言い切れるんだ?」 「だって私、まだ死んでないし」 あっけらかんと告げるハルヒにモグラ獣人は呆れそうになるが、ハルヒはモグラ獣人と目と目を合わせて「……それに」と続けた。 「……アンタはアマゾンって人の仲間……『トモダチ』だったんでしょ?昔はどうだったか知らないけど、正義のヒーローの『トモダチ』が死んだ後に地獄に落ちる訳ないじゃない!そんなの、閻魔様やあのハ・デスって奴が許しても、この私が許さないわ!!正義のヒーローが死んだ後に行くべきなのは、『天国』のはずだもの!!!」 「…………」 何の根拠も、確証も無い言葉。 だがモグラ獣人には、何よりの救いの言葉だった。 そうだ。 自分は悪者から世界を守るアマゾンライダーの『トモダチ』だ。 死んだ後に行くべきなのは『地獄』ではなく、『天国』の筈だ。 そう思うと……モグラ獣人の青い目からは自然と涙が流れ出していた。 「……ありがとう。お前、本当は良い奴なんだな」 「……『本当は』は余計でしょ!」 モグラ獣人の言葉にハルヒは頬を膨らませてそっぽを向くが、不思議と悪い気はしなかった。 「ほら!正義のヒーローの『トモダチ』が、そんなに簡単に泣いたりしないの!」 「チュチューン………」 ハルヒはスカートのポケットからハンカチを取り出すと、モグラ獣人の目から流れ出る涙を拭き取る。 その姿はまるで、幼子を慰める母親のようだった。 「……ちょっと!誰が『母親』よ!?せめて、『姉』って言いなさいよ!!」 「……チュチューン?」 地の文にツッコミを入れるハルヒの姿に、モグラ獣人は首をかしげたのだった。 その時である。 近くの草むらから、がさごそと何かが動くような音が聞こえてきた。 「えっ?な、何?」 「チュチューン!」 突然の物音にハルヒは固まり、モグラ獣人はハルヒを庇うように身構える。 そして、草むらの方からは…… 「ワフゥ~」 二人の思いもよらない者が姿を現したのだ。 「チュチューン!?」 「こ、今度はブルドック怪獣!?」 そこにいたのは、一匹のブルドックだった。 だが、ただのブルドックではない。 「ワフゥ~」 それは額からフォークを思わせる触覚を生やし、牛かサイに匹敵する巨体を持つ巨大ブルドックだったのだ。 その首にはハルヒやモグラ獣人と同じく、金属製の無骨な首輪が嵌められている。 どうやらこのブルドックはNPCではなく、参加者のようだった。 「凄い!スゴいわ!モグラ怪獣を見つけたと思ったら、今度はブルドック怪獣に会えるなんて!!」 「いや、だから俺はモグラ『怪獣』じゃなくて、モグラ『獣人』なんだけど……」 モグラ獣人の抗議がハルヒの耳に入る事はなかった。 ハルヒは巨大ブルドックに駆け寄ると、その大きな体に抱きついた。 「きゃあっ!スッゴいモフモフだわぁ~♪ぬいぐるみみたい!」 「ワフゥ~♪」 ハルヒにギュッと抱き締められて、巨大ブルドックは嬉しそうに鳴いていた。 一方、モグラ獣人は巨大ブルドックに対してビビりまくっていた。 「チュチューン……おいやめろよ。食われたらどうすんだよ?」 「フッフッフッ………本物の怪獣に食べられるなら本望よ!」 「チュチューン……」 ハルヒの様子にモグラ獣人は困惑するしかなかった。 「………ん?」 そこでモグラ獣人はある事に気がついた。 「おい、そいつ、首になんかついてるぞ?」 「えっ?」 モグラ獣人の指摘を受け、 ハルヒは巨大ブルドッグの首に一枚の大きなカードがぶら下がっている事に気がついた。 巨大ブルドックの首にぶら下がっているそのカードには、『こんにちは、ボクの名前はロックジョー。ハグが大好きです』と英語で書かれていたのだ。 「へぇ~……アナタ、『ロックジョー』って言うのね?カッコいいじゃない!」 「ワフゥ~♪」 巨大ブルドック……ロックジョーは、自身の体をなで回すハルヒの顔を体と同じくらい大きな舌でなめたのだった。 「きゃあ!くすぐった~い♪」 「ワフゥ~」 ハルヒとロックジョーは楽しそうにじゃれあっていたが…… 「チュチューン・・・」 ……それを眺めるモグラ獣人は困惑するばかりであった。 「……よし、決めたわ!」 ハルヒはロックジョーから一旦離れると、ガッツポーズを決めながら叫ぶ。 「貴方達を、『SOS団特別団員』に任命するわ!」 「チュチューン?」 「ワフゥ~?」 ハルヒの唐突な発言にモグラ獣人とロックジョーは首を傾げた。 「SOS団は北高の部活だから、本当は貴方達は参加できないんだけど……今回は『緊急事態』だから特別にね♪︎そして、ここでのSOS団の目標は、『ハ・デスを打倒して、このふざけた『決闘』から皆を救う事』よ!」 『………』 ハルヒの突飛な発言に、モグラ獣人もロックジョーも呆然となった。 が……… 「………何?なんか文句あるの?」 「ちゅ、チュチューン!違ぇよ!?」 「ワフゥ~!」 ……ハルヒからの鋭い睨みを受け、もはやモグラ獣人もロックジョーも『NO』とは言えなかった。 「よ~し!それじゃあ早速行動開始よ!」 「…………」 「返事! 「……チュチューン!!」 ☆☆☆ かくしてモグラ獣人は涼宮ハルヒ率いる『SOS団』の一員として、『決闘の打破』の為に動く事になったのだった。 めでたし、めでたし。 (by杉田ボイス) 「全然めでたかねぇーよ!?」 【モグラ獣人@仮面ライダーアマゾン】 [状態] 健康、困惑 [装備] 無し [道具] 基本支給品、ランダム支給品1~3 [思考・状況] 基本 アマゾン達に会いたい 1 ハルヒの様子に困惑 2 なんで俺、生きてるんだ? 3 俺は『怪獣』じゃなくて『獣人』なんだけどなぁ……? [備考] キノコ獣人に殺された直後からの参戦。 ハルヒから『SOS団特別団員』に任命されました。 殺し合い会場は地獄なのでは?と考えています。 【涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱】 [状態] 健康、歓喜、興奮 [装備] 無し [道具] 基本支給品、ランダム支給品1~3 [思考・状況] 基本 SOS団特別団員達と協力してハ・デスを打倒し、このふざけた『決闘』から皆を救う 1 この会場でSOS団メンバーを増やしていく 2 本物の怪獣がこんなに!!スゴ~い!! 3 キョン達SOS団の仲間がいるなら合流する [備考] 『射手座の日』以降、『消失』以前の時間からの参戦。 モグラ獣人とロックジョーを『SOS団特別団員』に任命しました。 モグラ獣人から『仮面ライダーアマゾン』世界の概要(モグラ獣人が死亡した『仮面ライダーアマゾン』第20話時点まで)を聞きました。 【ロックジョー@マーベル・コミックス】 [状態] 健康 [装備] ロックジョーの自己紹介カード@マーベル・コミックス [道具] 基本支給品、ランダム支給品1~2 [思考・状況] 基本 早く帰りたい 1 ワフゥ~♪ [備考] 『Ms.マーベル』誌でMs.マーベルことカマラ・カーンと行動していた頃からの参戦。 涼宮ハルヒから『SOS団特別団員』に任命されました。 テレポート能力を持っていますが、制限により一度に移動できる最大距離はエリア『1マス』分だけです。 【支給品紹介】 【ロックジョーの自己紹介カード@マーベル・コミックス】 ロックジョーに支給。 ロックジョーがMs.マーベルことカマラ・カーンと最初に会った時に首から下げていたカード。 「HELLO.My name is Lockjaw.I like Hug(日本語訳 こんにちは、ボクの名前はロックジョー。ハグが大好きです)」と書かれている。
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ヘビー級(Heavyweights) 93.0~120.2kg アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラ(Antonio Rodrigo Nogueira) ブロック・レスナー(Brock Lesnar) フランク・ミア(Frank Mir) ブランドン・ヴェラ(Brandon Vera)(LH) ガブリエル・ゴンザガ(Gabriel Gonzaga) ケイン・ヴェラスケス(Cain Velasquez) シーク・コンゴ(Cheick Kongo) エディ・サンチェズ(Eddie Sanchez) ヒース・ヒーリング(Heath Herring) アンドレイ・アルロフスキー(Andrei Arlovski) ミルコ・クロコップ(Mirko Crocop) ファブリシオ・ヴェウドゥム(Fabricio Werdum) ティム・シルビア(Tim Sylvia) マーク・コールマン(Mark Coleman) アントニー・ハードンク(Antoni Hardonk) ジャスティン・マッコリー(Justin McCully) ライトヘビー級(Light Heavyweights) 83.9~93.0kg チャック・リデル(Chuck Lidell) クイントン”ランペイジ”ジャクソン(Quinton "Rampage" Jackson) フォレスト・グリフィン(Forrest Griffin) ティト・オーティス(Tito Ortiz) キース・ジャーディン(Keith Jardine9 ヴァンダレイ・シウバ(Wanderlei Silva) マウリシオ”ショーグン”フア(Mauricio "Shogun" Rua) リョート”ドラゴン”マチダ(Lyoto"DRAGON" Machida) ラシャド・エヴァンス(Rashad Evans) ステファン・ボナー(Stephan Bonnar) ジェームス・アーヴィン(James Irvin) ウィルソン・ゴヴェイア(Wilson Gouveia)(MW) ヒューストン・アレクサンダー(Houston Alexander) 中村 和裕(Kazuhiro Nakamura) チアゴ・シウバ(Thiago Silva) ティム・ブッシュ(Tim Boetsch) ライアン・ベイダー(Ryan Bader)(DLC) ミドル級(Middleweights) 77.1~83.9kg アンデウソン・シウバ(Anderson Silva)(LH) リッチ・フランクリン(Rich Franklin)(LH) ダン・ヘンダーソン(Dan Henderson)(LH) マイケル・ビスピン(Michael Bisping)(LH) ケンドール・グローブ(Kendall Grove) クリス・レーベン(Chris Leben) ジェイソン・マクドナルド(Jason MacDonald) ネイト・マーコート(Nate Marquardt) ドリュー・マクフェデリース(Drew McFedries) ヒカルド・アルメイダ(Ricardo Almeida) エヴァン・タナー(Evan Tanner) 岡見 勇信(Yushin Okami) デミアン・マイア(Demian Maia) マルティン・カンプマン(Martin Kampmann)(WW) アミール・サダロー(Amir Sadollah)(WW) タリス・レイチ(Thales Leites) ウェルター級(Welterweights) 70.3~77.1kg ジョルジュ・サン・ピエール(Georges St-Pierre) マット・ヒューズ(Matt Hughes) マット・セラ(Matt Sera)(LW) ジョン・フィッチ(Jon Fitch) カロ・パリーシャン(Karo Parisyan) ジョシュ・コスチェック(Josh Koscheck) ディエゴ・サンチェズ(Diego Sanchez) マイク・スウィック(Mike Swick)(MW) マーカス・デイヴィス(Marcus Davis) チアゴ・アウヴェス(Thiago Alves) クリス・ライトル(Chris Lytle) ベン・サンダース(Ben Saunders) ジョシュ・バークマン(Josh Burkman) カイル・ブラッドリー(Kyle Bradley) マット・アローヨ(Matt Arroyo) アンソニー・ジョンソン(Anthony Johnson) ライト級(Lightweights) 65.7~70.3kg BJ・ペン(BJ Penn)(WW) ショーン・シャーク(Sean Sherk)(WW) ケニー・フロリアン(Kenny Florian) ロジャー・フエルタ(Roger Huerta) ジョー・スティーブンソン(Joe Stevenson) マック・ダンジグ(Mac Danzig) ネイソン・ディアズ(Nathan Diaz) スペンサー・フィッシャー(Spencer Fisher) タイソン・グリフィン(Tyson Griffin) グレイ・メイナード(Gray Maynard) チアゴ・タヴァレス(Thiago Tavares) ジョー・ローゾン(Joe Lauzon) リッチ・クレメンティ(Rich Clementi) マーク・ボセック(Mark Bocek) エルメス・フランカ(Hermes Franca) フランク・エドガー(Frank Edgar) エフレイン・エスクデロ(Efrain Escudero)(DLC) 階級別スタイル ヘビー級 16人4パターン キックボクシング+レスリング 5人 ボクシング+レスリング 4人 ボクシング+BJJ 3人 ムエタイ+BJJ 4人 ライトヘビー級 18人7パターン キックボクシング+レスリング 3人 ボクシング+レスリング 4人 ムエタイ+レスリング 2人 キックボクシング+BJJ 3人 ボクシング+BJJ 2人 ムエタイ+BJJ 3人 ボクシング+柔道 1人 ミドル級 17人3パターン ボクシング+レスリング 6人 ボクシング+BJJ 7人 ムエタイ+BJJ 4人 ウェルター級 16人5パターン キックボクシング+レスリング 2人 ボクシング+レスリング 6人 キックボクシング+BJJ 2人 ボクシング+BJJ 4人 ボクシング+柔道 2人 ライト級 18人4パターン キックボクシング+レスリング 2人 ボクシング+レスリング 4人 ボクシング+BJJ 9人 ムエタイ+BJJ 3人
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《前島早威()/Maejima Sai》 フルネーム 前島早威 カナ マエジマ サイ 性別 男 身長 184cm 体重 70kg 年齢 21歳 特技 ボクシング 好きなもの ボクシング 嫌いなもの 人の夢を馬鹿にするやつ 二つ名 ザ・シャドウ 「小さかったころの俺は、将来の俺にどんな夢を抱いてたっけな ってさ」 暗黒街に店を構える「竹内ボクシングジム」出身のプロボクサー。二階級制覇のミドル級世界チャンピオン。 容姿端麗な美青年で、多くの女性ファンを持つとともに 日本人にしては快挙である世界ボクシングミドル級を制覇した偉業を持ち、東洋人層に高い人気を誇る。 ボクシングに関してはストイックで実直、プライベートでの性格はとにかく寛大で、それでいて器用。正真正銘のイケメン。 +ザ・シャドウ 経歴一切不明の状態から突如としてボクシング界に台頭し、またたく間に世界スーパーウェルター級、ミドル級を制覇。 ボクシング世界王者の座をかっさらっていったエピソードがあり。ついたあだ名が「ザ・シャドウ(影)」 さらに彼の放つパンチが恐ろしく早く、とても肉眼では捉えられないと称されたことも理由の一つ。 このエピソードの裏には、彼が元々カオス界出身ではなく異界人であることが起因している。 +ドラマ内での活躍 男三人に喧嘩を仕掛けていた例のキチガイと遭遇。白川陽一に喧嘩を仕掛けられ ボクシングには無い蹴り技で責められ一時苦戦を強いられる。 その後長期戦覚悟のタイマンで、本来最も得意とする「デトロイトスタイル」を解禁。 相手を全く近づかせない超高速のフリッカージャブを見舞い陽一を追い詰める。 最後は陽一の起死回生のスリッピング・アウェーによってバランスを崩された後、逆一本背負い投げを決められ敗北した。 その後白川陽一、満宝跳太、安達昇也と友人になる。 +余談 彼の名前「前島早威」は、「逸見才人」の没ネーム。 「さい」と「さいと」と、若干だが逸見にもその名残がある。 性格は正反対だが。 関連ページ 白川陽一 満宝跳太 安達昇也 百鬼夜行 関連画像 キャラクター紹介へ戻る|キャラクター紹介 【ゲスト】へ戻る コメント 名前 コメント すべてのコメントを見る
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若頭は12歳(幼女)外伝 隻眼の獅子編【結】 ――あれから幾つ、敵へ拳を繰り出したのだろうか? 幾度、木刀を振るい、突き出し、柄尻で打ち据え、薙ぎ払ったのだろうか? そして幾人の敵を、投げ飛ばし、蹴り飛ばし、床に叩き伏せたのだろうか? 私と構成員達、一対多数の戦いは、最早時間さえも無為に感じられるくらいに長く続いていた。 既に、私の周囲の床には多数の構成員達が横たわり、その何れもが意識を失い、或いは苦悶の呻きを漏らしている。 もう、この場で何人倒したのか、私自身ですら覚えてはいない。 「ふぅー……ふぅー……」 ――いや、正確に言えば、それを数えている余裕すら無い、と言った方が良かった。 ……満身創痍、今の私の状態を四字熟語で言い表すなら、この一言に尽きた。 既に、身体の何箇所には刃物による刀傷が紅く刻まれ、打撲によるダメージで身体の所々が腫れ上がっている。 更に長い戦いで蓄積したダメージと疲労によって、足腰が言う事を利かず、真っ直ぐ立つ事ですら困難であり、 その上、恐らく肋骨辺りにダメージを受けたのか、呼吸するだけで言い難い痛みが身体を走る。 多分、頬の内側の何処かを切ったのか、それとも内臓にダメージを受けたか、鼻腔は既に自分の血の匂いしか感じない。 既に手にした木刀も半ばからへし折れ、その機能を果たせない状態となっている。 多分、今の状況で少しでも気を抜けば、私の身体は糸の切れたマリオネットの如く、その場に崩れ落ちる事だろう。 ……しかし、それでも私は……。 「……さぁ、如何した?……こっちは手負いだぞ? 手柄を上げるチャンスだ……早く掛かって来い」 荒い息を混じらせたの私の挑発に、構成員達は警戒か躊躇しているのか、遠巻きになって様子を伺う。 彼らがそうなるのも無理も無い、誰だって床に伏している仲間と同じ運命を辿るのは嫌なのだろう。 もしくは、手負いのケモノほど恐ろしい物は無い、と彼らは本能的に悟っているのだろう。 ――私は、一歩も退く気は無かった。 もしここで一歩でも退けば、それは私のスタイル――生き方その物を否定する事になるから。 そうなってしまう位ならば、私にとっては、死んでしまった方がマシといえた。 「い、いい加減にとっととくたばれぇっ!!」 やがて、遠巻きに見ていた構成員達の中から、果敢にも警棒振り上げ突撃する大柄な犬の男。 一歩踏み出そうとして、がくりと崩れ落ちそうになる私の身体。それを見て犬の男は勝利を確信し、笑みを浮かべる。 「がっ――……っ!?」 が、直後、犬の男の笑みは凍り付く事となる。 崩れ落ちる勢いを逆に利用して懐に潜り込んだ私が、男の腕へ食らい付き、その牙で噛み砕いた事で。 しかし、それに犬の男が悲鳴を上げる間も無く、その鳩尾へめり込む木刀の柄尻。 犬の男はニ、三度身体を震わせた後、警棒を取り落とし、横へどうっ、と崩れ落ちた。 それを一瞥した私は、構成員達の方へ向き直り―― 「――くっ……」 ――その矢先、眩暈にも似た感覚と共に、私はガクリとその場に膝を付いてしまう。 無論、私は直ぐに立ち上がろうとするも、別の物の様に足腰にまるで力が入らず、がくがくと痙攣するだけ。 どうやら、先ほどので私の身体は限界に達してしまったらしい……これは、本気で拙い……! 「どーやら、もう身体の限界の様やな。獅子宮はん」 「……タヌキ親父……」 その瞬間を待っていたのだろう、構成員達の群れが左右に割れ、私の前に姿を現す憲十郎。 私は思わず憎々しげに呟くが――その声ですらも、下手すれば消え入りそうな位に弱弱しくなっている。 大人用ほねっこ咥えた憲十郎は、膝を付いたまま睨みつける私へ向けて、勝ち誇った様に言う。 「ここまでほんまよー頑張ったわ。まさかこの数相手にここまでやるとはワイも思うても居なかったわ。 けどな、それもここでお仕舞いや。――飯島! 出番やで!」 「おう」 言葉に応え、構成員達の間からのっそりと現れたのは、2メートル以上はあろうかという体躯の牛の男。 それも、ただ身体が大きいだけではなく、飯島という男は何らかの格闘技で鍛え抜かれた鋼の様な肉体をしていた。 憲十郎は、横に立ったそいつの腕をぽんと叩き、 「こいつはな、かつてはボクシングのヘビー級では無敗を誇った、猛者中の猛者や。 けど、ある性癖の所為で、名を挙げる前にボクシング界を追われたっちゅう経歴をもっとるんや。 その性癖っちゅうのも、女を殴る事に快感を感じるという物でな……それでか最近、鬱屈が溜まっとるらしいんやわ」 「オジキ……この女、殴って良いんですか?」 「おう、お前が満足するまで殴って良いで?」 なるほど……こいつで、完膚なきまでトドメを刺すハラか! クソ、少しでも身体が動けば、こんな筋肉お化け位、何とでも出来るのだが……。 「グフフ、オジキの許可貰った……女、安心して、おれは一発じゃころさないよ? 何発も、何発も、お腹や顔を殴って、殴りまくるんだ。すっごく、気持ち良いだろうなぁ?」 ……なぁ、お前はどんな声で鳴いてくれるかな?」 ぐふぐふと涎垂らした気持ち悪い笑みを浮かべ、一歩、また一歩私へ歩み寄る牛の男。笑みを深める憲十郎。 無論、この間にも私は必死に動こうとするが、身体はまるで別の物体のようにまったく言う事を聞かない。 最早ここまでか……せめて、あのタヌキ親父に一矢報いたい所だったが、それも叶わずか……クソッタレ! そして、拳の届く距離まで近付いた牛の男は、ニタリと笑みを深め、 「よぉし、そのアイパッチが気に入らないから、先ずは顔から殴っちゃおう。……痛いけど我慢してね?」 私の顔面へ狙いを定め、大きく振り上げた拳を振り下ろす! まるでスローモーションの様に迫る男の拳、私は身動き取れず、それを睨むしか出来ない。 そして―― 斬 っ ! ――刹那、影が疾(はし)った。 同時に、縦一文字の割線が男の拳に刻まれる! 「がっ、ぎぃぃぃいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? おれの、おれの拳がぁぁっ――ぐべっ!」 其処から噴き出す紅い液体、 牛の男が苦悶の悲鳴を上げて拳を抑え――その直後、あっさりと殴り倒される。笑顔が凍りつく憲十郎。 それは――私の前に立つ、一人の男の一瞬の逸技(はやわざ)による物だった。 そして、同時にその男は――私には見覚えのある物であった。 「……綾…近……?」 「よう、獅子宮センセ。ずいぶんと楽しそうなことやってるじゃねーか。勝手に混ぜらせて貰うぜ?」 そう、それは森三一家の衆の一人、ネコの綾近だった! 「お前……何故こんな所に?」 「へへっ、ここに来たの、何も俺一人だけじゃねーぜ?」 思いもよらぬ人物の登場に驚きを隠せぬ私へ、 綾近は牙を見せて笑うと、くいっと尻尾の先である方を指し示す。 その刹那―― ず ど が ぁ っ ! 『うぐわぁぁぁぁっっっ!?』 その先で、やおら派手に吹き飛ぶ構成員達の一群! ――その向こうに居る者を見て、私の表情は更に驚きに染まった。 「よう、お客人――いや、怜子さん。俺達を差し置いて、随分と大きなゴミ掃除をやっているようで」 「一人じゃ何かと大変だろう? 俺達も勝手に手伝わせてもらうぜ?」 「そうそう、こう言うゴミ掃除は俺達の専売特許。後は俺達に任せな、怜子さん?」 「まあ、兎に角、今まで溜まってた鬱屈の分、派手にゴミ掃除をやらせてもらうぜ!」 多分、この時の私は確実に、お化けでも見るような表情をしていた事だろう。 何せ其処には、多少返り血は付いていれど殆ど無傷な銀虎、唯鶴、秋水、平次の四人が居たのだから。 確か、彼らは黒狼会の連中200人の襲撃を受けてた筈では……いや、それは良い。今、目の前で無事で居るのならば。 ――となれば、恐らくは彼女もこの場に来ている! 「……待たせたわね、怜子先生。今、助けに来たわ!」 声とともに、立っていた森三一家の四人が左右へ分かれ、 その間から一人の少女が、その可憐な外見とはおよそ不釣合いな長ドス片手に歩み出る。 ――彼女こそ、強者揃いの森三一家の衆を纏める若頭、森三 ゆみみ! 「な、な、な、な、何でお前らがここにおるねんや! 今頃、ワイの部下の襲撃受けて壊滅してるはずちゃうんか!?」 暫しの硬直の後、幽霊か化け物でも見たように酷く狼狽して喚く憲十郎。 しかし、その言葉に応えたのはゆみみではなく、嘲笑うような笑みを浮かべた銀虎。 「ああ、あいつらか? てんで大した事無い連中だったよ……とはいえ、流石に数は多かったから少々手間取ったがな?」 「そ、それでもこんな短時間に何とか出来る数や……」 「それは僕達も協力して闘ったからさ」 憲十郎が言いきる前に、横から割って入る聞き慣れぬ誰かの声。 私がその方へ振り向くよりも早く、その姿を見た憲十郎が更に驚きの声を上げる。 「なっ、ななななななっ、なんやとッ!? な、何で梶組の連中も一緒におるねんや!?」 「その理由はごく簡単な事さ。君達が邪魔だったから、それだけの事さ」 私が振り向いたその先には、五人くらいの部下を連れた一人の少年の姿。 見た目は中学高学年から高校生くらい、色白の肌に、何処か薄幸な物を感じさせる出で立ちの学生服姿の銀髪の少年だった。 まさかとは思うが……彼が以前に聞いた、梶組の次期頭首なのか? 「あの時は助けてくれて有難うね、日向(ひなた)君!」 「礼を言う必要は無いよ。たまたまゆみみさん達の目的が、僕達と一緒だった。たったそれだけのこ――ごふっ!?」 礼を言うゆみみに応えかけ、いきなり吐血する梶組の時期頭首――もとい、日向。 ――よもや、彼はここに来るまでの戦いの最中に、何処かで攻撃を受けていたのか!? しかし、驚く私を余所に、その傍に付き従っているアイパッチの犬の男は驚くどころか、 むしろ何時もの事のように、ハンカチを日向へ差し出しつつ、何処か呆れ混じりに言う。 「……坊ちゃん、階段登りきった後に無理して長台詞なんてしようとするからそうなるんですよ?」 「う…何時もゴメン、伊吹……ゲフゲフ」 「あ~あ、折角のカッコイイシーンが台無し……」 「…………」 「無理も無いですよねぇ、ただでさえ長い階段を駆けあがった後だし……」 「そう言えば、坊ちゃんは階段の途中でも血を吐いていましたしね……」 そして、病弱なおとっつあんの様に謝る日向を前に、呆れるやら溜息付くやらの梶組の面々。ゆみみ達も呆れ顔。 ……う、うーむ、多分彼らの反応から見て、この日向の吐血は、梶組の者にとっては何時もの事、なのだろうか……? ま、まぁ、兎に角、森三一家の者達がこんなに早く襲撃を退け、ここまでこれたのも、彼らの協力があったからなのだろう。 しかし、少女が若頭というのも如何だと思っていたが、事ある毎に血を吐く次期頭首と言うのも……なんだかなぁ。 「……そ、それにしてもや、48階へ行く為のカードキーも無いお前らが、なんでここまでこれたんや?! こういう事を防ぐ為に、お前らの襲撃に行かせたあいつらには、カードキーなんて持たせて無い筈やって言うのに…」 ……そう言えばそうだ、憲十郎が言うように、私もここまで来るのにカードキーを使う必要があったというのに、 カードキーも無い彼らはどうやってここまで来たんだ?――と、私が思っていた所で、ゆみみが何気なく答える。 「え? それだったら、47階から非常階段を使って上がって来たんだけど?」 ……をい……。 一瞬、静まり返ったフロアに、空調の音だけが響く。 「……し、しもたぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? それがあったの、すっかり忘れとったぁぁぁぁぁっ!?」 思いっきり頭を抱えて絶叫したのは憲十郎。どうやら盲点だったらしい。 まさかそんなアナログな手段で、鉄壁と思われていたセキュリティを突破されるとは夢にも思わなかったのだろう。 まぁ、それに気付かなかった私も私で、ある意味では間が抜けているというか……。 「くっ、まぁそんなのは如何でもええ、ここでお前らを仕留めてしまえば良いだけの話や。 それに、数だってまだまだこっちの方が上や! むしろ飛んで火にいる夏のなんとやらって奴や!」 しかしそれでもまだ勝てる気でいるのか、 憲十郎は何処までも諦めの悪い台詞を言った後、構成員達に向けて言い放つ。 「お前ら! 連中倒せば一人に付き3000万、 そして森三一家、梶組のリーダー倒せば一人に付き一億のボーナス出すでっ!」 憲十郎の口から出たボーナスの言葉に、ざわりっ、と波紋が広がる様に構成員達がどよめく。 ――こいつ! 思わぬ増援で下がってしまった士気を、金の力で無理やり引き上げたか! 「さぁ行け! 森三一家と梶組を叩き潰せ!」 「潰せる物なら潰して見なさい!」 「そう簡単には行かないだろうけどね!」 憲十郎の言葉を合図に、動き出す構成員達。 そして、それとほぼ同時に動き出す、森三一家と梶組の面々。 ――かくて、森三一家&梶組VS黒狼会の最終決戦の幕が切って落された! 「へへっ、今日はお嬢に七割殺しまで良いって言われたからな! ガンガン行くぜ、ガンガンと!」 言って、最初に動き出したのは、抜き身の長ドスを構えて走り出す綾近。 その前方には既に戦闘準備を終え、迎撃の態勢を整えた構成員達。 「オラオラオラオラオラオラオラオラオララララララララララララァッ!!」 しかし、構成員達が綾近へ武器を振るうよりも早く、 彼はネコ特有の機敏な身のこなしで、構成員達の間を駆け抜け―― 「がっ!?」 「ぐっ!?」 「げっ!?」 ―――それから一瞬の間を置いて、 彼が傍を通っていった構成員達は身体の何処彼処から血を噴き出し、ばたばたと床に倒れ伏して行く! しかし、致命傷は与えてはいないらしく、倒れている何れも痛みによる苦悶の声を漏らし、呻き声を上げていた。 「し、しねぇぇぇぇぇっ!」 綾近が足を止めた隙を突いたつもりか、 構成員の内の一人の男が、果敢にも長ドスを振り上げ、後ろから襲いかかる! 「おせぇよ、タコが」 「――なっ…ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!?」 ――が、綾近は無造作ながらも軽やかな動きで、男の斬撃をあっさりと回避。 そしてその瞬間には、男の腕は長ドスを持った状態のまま、ごとりと音を立てて床へと転がった。 悲鳴を上げる男へ一瞥をした後、綾近は構成員達の方へゆっくりと向き直り、狂気を混じらせた笑みを浮かべ、言う。 「なぁ……次に斬られたい奴はどいつだ? 今なら七割殺しで良いんだぜ?」 その問いに応える者は無く、構成員達は一様に怯えたような表情浮かべ、一歩後退りした。 代わりに、血の色に染まった長ドスが、室内灯の明かりに紅く照り返し、怪しく輝いた。 「ひぃぃぃぃぃぃ!? た、たすけてくれぇぇぇぇぇっ!?」 周囲の喧騒をかき消す様に、叫び声がフロアに響く。 ――平次の片腕によって、襟首を掴まれ、やすやすと掲げ上げられている構成員の悲痛な声が。 何とか其処から逃れようと、構成員は必死にもがく物の、襟首を掴む平次の腕はまるで鋼の像の如くビクともしない。 無論、下手すれば投げ付けられる可能性もあるので、他の構成員達も迂闊に手を出せないでいる。 「おいおい、そんなに叫ばないでくれよ。俺はただ掴み上げてるだけだぜ? 何も怖いような事はしてないっての」 「ひっ、ひぃぃぃぃぃっ!?」 安心させるつもりで言ったのだろうか、平次がにっと笑みを浮かべて言うのだが、 掲げ上げられた構成員にとっては余計に恐怖を煽るだけだったらしく、その悲鳴を余計に高めるだけ。 その様子を見て、平次は呆れた様に溜息を漏らし、ブルルと鼻を鳴らすと、 「まぁ良いや、どっち道やる事は変わりねーし、今は存分に叫びな!」 「……え?」 平次の言葉に、悲鳴を疑問符へと変える構成員。しかし、その間も無く――― 「うぉぉぉぉらぁぁぁぁぁぁぁいくぜいくぜいくぜぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!」 「うぎぃぃぃえええぇぇぇぇぇぇ!?!?」 平次が片腕に掲げた構成員を盾にして、構成員達の群れに向かって全速力で走り出す! 当然、進路上にいた不運な構成員達は面白いくらいに跳ね飛ばされ、吹き飛び、次々と床に転がって行く。 「ぐぎゃげぐへごげがぐぎゃげへぶぎゃ!?」 「おらおらおらおらっ! スピードアップだぁっ!! 無論の事ながら、盾にされている構成員は、衝突する仲間の身体によって見る見るうちに酷い姿へと変わって行く。 しかし、平次はそんな事関係無いとばかりに駆ける速度を速め、その被害者の数を加速度的に増やして行く。 構成員達の群れを吹き飛ばしながら、強引に駆け抜けるその姿は、何処かラッセル機関車を彷彿とさせた。 ――鞘に収めた長ドスを携え、秋水はまるで無造作な歩みで、構成員達の一群へと近付いて行く。 それに気付いた構成員達は武器を構え、にわかに色めき立つ。やがて彼らは秋水を包囲するように動く。 ――しかし、何故か攻撃は出来ない。無造作でありながらも、全く隙の無い秋水の気配に圧され。 「おやおや、如何したんですか皆さん。俺の首を取れば3000万貰えるのに、何を躊躇しているんでしょうか?」 そんな周囲へ向けて、秋水は口角を吊り上げ、何処か嘲りを混じらせた言葉で挑発する。 僅かな間を置いて、構成員達は互いの顔を見合わせ―― 『うぉぉぉりゃぁぁぁぁぁっ!!』 どうやら、一斉に攻撃をすれば大丈夫と踏んだらしく、 周囲の構成員達が武器を振り上げ、秋水へと襲いかかる! それに応じる様に、彼は僅かに鎌えー―― が っ ! ど っ ! ご っ ! フロアの室内灯に照り返し、二度、三度煌く白刃。緩やかになびく尻尾。 そして、時間が止まったように動きを止める構成員達。 『――っ!?』 次の瞬間、構成員達は呻き声さえ上げる事無く、その場にばたばたと倒れ伏して行く。 秋水は床に伏す彼らを一瞥すると、何時の間にか抜き放っていた長ドスをゆっくりとした動きで鞘に収め、言う。 「安心しな。綾近と違ってただの峯打ちだ……尤も、暫くは病院暮らしでしょうがね?」 その言葉に、床に転がった構成員は呻き声で返した。 「ぐへぁぁっ!?」 悲痛な叫び声と共に、大柄な豚の男の身体が宙を舞い、その傍にいた数人を巻き込んで床に転がる。 ――唯鶴の放った、豪腕による破城鎚の如き一撃によって。 鼻血まみれの悲惨な有様な男の末路を前に、構成員達がざわりとどよめき、怯えた様に後退りする。 「おいおい……こいつも見た目だけか? 黒狼会ってのは名前の割に、本当にてんで大した奴がいねぇんだな? 長ドス持ってこなけりゃ良かったぜ」 すっかり腰が引けている周囲の構成員達を、そして倒れている男を一瞥し、唯鶴は呆れ混じりに言い放つ。 しかし、それに反論する勇気のある奴は居ないらしく、構成員達は皆、唯鶴へ怯えた眼差しを向け―― と、唐突にその構成員達の群れが左右に割れ、其処から一人の大男が姿を現す。 先ほどの牛の男と同じ位に筋肉隆々の、拳の喧嘩タコが目立つ人間の男である。 「テメェが森三一家の唯鶴か、噂は聞いてるぜ? 相当強いらしいな!」 「……ほう、随分と骨のありそうなのが出てきたじゃないか?」 自分の背丈よりも頭一つ大きな男を前に、飽くまで余裕な態度の唯鶴。 しかし悲しいかな、この男は何を勘違いしたのか、唯鶴が無理して虚勢をはっているのだろうと思ったらしく、 無意味に胸を張り、何処か自慢気に話し始める。 「へへっ、そう言う余裕を見せてられるのも今の内だ。 言っておくがこの俺様はオジキのお気に入りでな、空手八段に柔道五段、そして剣道も――」 ご が っ ! ――が、男が全てを言いきる間も無く、唯鶴が無言で放った右ストレートがその顔面へ思いっきりめり込む! 男はこの一撃であっさりと気を失ったらしく、悲鳴すら上げる事無く後方へと吹き飛び、後ろに居た構成員達を巻きこむ。 そして、起き上がる事はおろか、ピクリとも動かなくなった男をみて、唯鶴は殴った手を振りたくりながら溜息混じりに呟いた。 「やれやれ、確かに自慢するだけの事はあるな。面の皮がやたらと硬ぇやこいつ」 その一方、慌しく動く構成員達の中心に立っているのは、抜き身の長ドス片手に佇む銀虎。 「つ、強すぎる……」 「く、クソ、囲め、囲むんだ!」 既に彼の周りには、果敢に彼へと挑み、その結果、敢無く床に伏す事となった構成員達が多数。 しかしそれでも、森三一家のナンバーワンを仕留めて名を上げようと息巻く勇敢――もとい、無謀な者は多いらしく、 今もなお、銀虎を倒さんとする複数の構成員達が、果敢にも挑もうとしていた……その結果がどうなるかも考えずに。 「はぁあ、やれやれ……随分と人気があるもんだなぁ、俺も」 構成員達に完全に包囲されていながらも、飽くまで落ち付いた調子で抜き身の長ドスをぶらぶらとさせる銀虎。 しかし、一見隙だらけの様に見えていながらも、彼のその所作の一つ一つからは付入る隙が全く持って見当たらず、 周囲の構成員達は攻撃をする事も出来ないまま、ただただ武器を、拳を握り締め、様子を伺うしかなかった。 「う、うぉぉぉぉっ! 銀虎、覚悟ぉぉぉぉっ!!」 ――だが、それでも掛け値なしの無謀者は何処にでも存在するらしく、 動きの無い状況に痺れを切らしたスキンヘッドの男が、叫びと共に木刀を振り上げ、銀虎へ向けて振り下ろす! がっ! 「……な?」 しかし、銀虎は反撃する事はおろか避ける事も無く、振り下ろされた木刀を頭で 受け止めた 。 表情が凍り付くスキンヘッド。それも無理も無い、一撃を食らったにも関わらず、銀虎は揺らぎすらもしなかったのだから。 そして、銀虎の長ドスを持ってない方の手がゆっくりと、頭へ振り下ろされたままの木刀を掴み取り、誰に向けるまでも無く言う。 「手前ぇらが、あんまりにも歯応えが無いもんでな、 一方的に攻めるのも難だし、たまにはちょっとは食らってやっても良いかな? とは思ったんだが……。 流石にこれじゃあ、食らってやろうと思える価値すらもねぇよなぁ?」 「ひっ、ひぃぃっ!?」 グラサン越しに睨む、銀虎の圧力にも似た視線に気圧され、怯えた悲鳴を上げるスキンヘッド。 その隙に銀虎は木刀をあっさりとスキンヘッドから引っ手繰ると、怯えるスキンヘッドへ向けて、 「折角だ、手前ぇには敢闘賞として俺が直々に、木刀の使い方を教えてやる」 「や、やめっ、やめてくれぇっ!?」 「遠慮するな……木刀の使い方って言うのはな、こう使うんだっ!!」 ば ぎ ゃ ぁ っ ! 咆哮と共に木刀を一閃! へし折れる木刀、そして鼻血やら折れた歯やら巻き散らして吹き飛ぶスキンヘッド。 哀れ、スキンヘッドの彼はそのまま壁に叩き付けられ、壁に血の顔拓残して床へ落ちた後、再び起き上がる事はなかった。 そして、折れた木刀を投げ捨てた銀虎は、周囲で表情を凍り付かせている構成員達へむけて、 牙を見せた兇暴な肉食獣その物の笑みを浮かべながら言う。 「さぁて、次に俺に挑みてぇ奴はどいつだ?」 ――無論、この状況の中、私も悠長に彼らの戦いっぷりを眺めている訳ではなく。 彼らの戦いの邪魔にならぬ様に、疲労困憊&満身創痍な身体を何とか動かして、なるべく戦場から退避していた。 「追い詰めたぞ、女! よくも宏次をあんな目に合わせやがって!」 だが、やはり私に散々仲間を叩きのめされ、相当頭にきているのか、 最早この状況では何の得にもならないというのに、わざわざ私を倒そうと向かってくる者が居たりする。 ……ちっ、こう言う時くらい、放っておいてくれれば良いものを…… 「覚悟ぉっ!」 ありきたり極まる言葉を吐きながら、長ドス振り上げ私に襲いかかる男! 私は何とか対応しようとするのだが、いかんせん、積もり積もった疲労の所為で身体が言うことを効かない。 クソ、少しでも体力が回復していればこんな奴……! ギャキィンっ! 「――ぎゃっ!?」 ――不意に私と男の間に立ちはだかる小さな影。 次の瞬間、その影が振るった一撃によって、長ドスが弾かれると同時に、男の親指の付け根が切り裂かれていた! 無論、男は直ぐ様反応しようとするが、その直後に見事な蹴りを股間へ貰い、呻き声に近い悲鳴を残して倒れ伏す。 その後ろ姿は、悲鳴と怒号飛び交う戦場には余りにも可憐で、同時に戦場には酷く似つかわしく無いものだった。 「怜子先生、大丈夫?」 「ゆみみ少女……」 それは森三一家の若頭、森三 ゆみみだった! 私は心の中で動きたがらない身体に喝を入れて、何とか立ちあがりゆみみへ言う。 「別に、私を助けなくても良いんだがな……?」 「良いのよ怜子先生、強がらなくても。今は動けないんでしょ? もう、まったく幾ら頭にきたからって、一人で行くのは無茶なのよ」 しかし、私が虚勢を張っているのを見透かされていたらしく、振り向く事無くゆみみは言う。 むぅ……どうもこう言うのは、ばつが悪い物を感じて仕方がない……。 だが、だからと言って素直に助けてくれと言うのも、私自身のプライドが許さないというか……我ながら、何と難儀なものだ。 「くそ、よくも礼二をやりやがったな!」 「相手は手負いとガキ一人だ! 俺達でもやれる!」 「へへっ、逃げるんじゃねーぞぉ?」 とか考えている間に、こちらに目をつけた新手の敵が三人! しかし、私をそれの対応に動こうとしたのをゆみみが手で制し、顔だけをこちらへ向けて自分の背中越しに言う。 「怜子先生、ここは私に任せて? 彼らは私が何とかするから、その間に身体を休めてて」 「だが……」 「大丈夫、私はこれでも森三一家の若頭よ? こう見えて強いんだから!」 私の心配の声を遮って、ゆみみは言うだけ言って笑みを浮かべると、三人の方へと向き直る。 そして、彼女は少女らしからぬ朗々とした声で、三人に向けて言い放つ。 「私こそ、森三一家が若頭、森三 ゆみみよ! あなた達はお金が欲しいんでしょ? なら私を狙いなさい!」 ゆみみが切った啖呵に、思わず顔を見合わせる三人。 そして、三人は何処か小馬鹿にした様に笑いながら口々に言い始める。 「おいおい、噂には聞いていたが、森三一家の若頭がこんなガキだったとはな?」 「お嬢ちゃん。ヤクザごっこなら他でやってくんな?」 「そうそう、怪我して泣いてしまう前に、とっとと家に帰って勉強してなって」 げらげらと笑う三人、しかしゆみみは怒る事もなく、ただ無言で長ドスを構えるだけ。 その様子に苛立ちを感じたのだろうか、三人の内の一人の犬の男がゆみみへと歩み寄り、 「ほら、そんな危ねぇもんも早く仕舞って―――」 荒荒しく言って、ゆみみの持つ長ドスへ手を伸ばし――次の瞬間、彼女が動いた。 ざむっ! 「――なっ……がっ!?」 流れる様な動きでの一閃、犬の男が伸ばしかけた手首の 腱だけ を切り裂く! それに犬の男が悲鳴を上げる間も無く、素早く懐に潜り込んだゆみみの長ドスの柄尻の一撃が犬の男の鳩尾へ食い込む! 何が起こったのかも殆ど理解できぬまま、犬の男はくたりっ、と身体をくの字に折り曲げ、意識を失う。 「――な……!?」 「こ……このガキッ!」 年端も行かぬ少女によって、仲間が瞬く間にやられた光景を前に、思わず驚きの声を上げる二人。 しかし、その内の一人のネコの男は直ぐに我に返ったらしく、怒りの声を上げてゆみみへ掴み掛かる! 「――うわっ、と――」 が、其処へ意識を失った犬の男の身体を押し出され、思わず両手で受け止めるネコの男。 ザシュッ! 「――ぎぇっ!?」 ――その一瞬を見逃さず、ゆみみは素早く男の脇を掛け抜け、同時に膝への一撃! 恐らくこの一撃で膝の靭帯を断ち切られたのだろう、ネコの男は悲鳴を上げてあっさりと体勢を崩す。 其処へすかさず延髄への峯打ちを貰い、ネコの男は声を出す間も無く前のめりに倒れ伏した。 「え? お、おい、ちょっとま――…ぎゅっ!?」 目の前であっという間に仲間二人をやられ、驚き戸惑いの声を上げる残りの一人。 直後、その顔面へゆみみの飛び蹴りが見事に決まり、彼は鼻血を噴きながら沈黙した。 ……彼女、結構やるじゃないか……いや、それ所か小柄な身体と素早さを活かしたあの戦い方は実に見事。 ただのお飾り的存在かと少し思っていたのだが、どうやらその認識は変えた方が良い様だ。 そんな自分の認識の狭さに自嘲の笑みを零す私へ、ゆみみははにかむ様に微笑みかけて言った。 「ね? 言ったでしょ。私が何とかするって」 ――戦況は早くも、決着の動きを見せ始めていた。 最初こそは数の優位と、憲十郎の特別ボーナスの一言で士気が高かった黒狼会側であったが 構成員達全体の錬度不足に加え、戦場となったビルのフロアの意外な手狭さも加わって、 黒狼会側は思う様に戦えず、それ所か特別ボーナスに目がくらんだ事で仲間同士が邪魔し合う状態となっていた。 反面、森三一家は一人一人の戦闘能力の高さに加え、士気も非常に高く。 その上、少数精鋭である事を存分に活かし、的確に敵軍の分断および敵の各個撃破を行っていった。 更にそれに加え、梶組の面々も森三一家の衆と何ら遜色のない実力を発揮し、黒狼会の戦力を確実に減らしていった。 まぁ、そもそも狭いフロアに100人以上が犇(ひしめ)いているこの状況。 黒狼会側にすれば思う様に動けないばかりか、下手に攻撃をすれば仲間を巻き込む恐れがある為、思う様に手が出せず。 おまけに仲間への誤射を恐れてか、拳銃を使おうという者はこの場にはおらず、一方的に攻められる始末。 逆に森三一家&梶組側にしてみれば、それこそ少数精鋭の利点生かして周囲の敵を殴り放題倒し放題な状態であり、 その結果は、火を見るよりも明らかな状況であった。 ――そう、森三一家&梶組側の一方的な優勢と言う状況に。 「何でやねん……何でやねん……」 そんな状況を誰よりも好ましく思っていなかったのは、他ならぬ憲十郎。 また一人、そしてまた一人と自分の兵隊が次々と倒れて行く様を前に、 彼はまさしく悔しさで歯噛みする様に呟きを漏らしていた。 「戦力はこっちの方が上やねんぞ。なのになんでこうも一方的にやられるんや。訳分からんで!」 「その理由は簡単よ」 「――っ!?」 横合いから掛かった声に振り向き、思わず驚きに体毛を逆立てる憲十郎。 其処に立っていた、長ドス片手のゆみみの無傷な姿と、もう動けるまでに体力を回復させた私の姿を目にして。 無論、その周囲に居た構成員達は皆既に、ゆみみと私の手によって床に倒れ伏し、苦悶のうめきを漏らしている所である。 それを前に驚き竦む憲十郎へ、ゆみみは長ドスの切っ先を向けながら、凛とした声で言い放つ。 「……あなた達は私達を甘く見ていた。 数で圧せば何とかなると思っていた様だけど、それで私達を如何にか出来る程、この世の中は甘く無いわ!」 「く、く、くぅおのガキがっ!!」 ゆみみの切った啖呵に、牙が見えるまでに顔を怒りの形相に変え、全身の体毛を逆立てる憲十郎。 しかし、憲十郎はやおら踵を返すと、周囲で戦っていた構成員へ向けて言い放つ。 「お前ら、こいつらの足止めをしろ! 後で金は払う!」 言って、フロア奥の扉の向こうへと走る憲十郎。 ――こいつ、この期に及んでまだ逃げるつもりか! 「待ちなさい!」 無論、逃がさないとばかりにその後を追って駆け出すゆみみ。 其処へ馬鹿正直に憲十郎の命令を聞いた構成員の何人かが、果敢にも彼女の前に立ちはだかるが、 彼女は一度か二度切り結んだだけで、あっさりと邪魔者を戦闘不能にし、直ぐ様に後を追って行く。 やはり、可憐な見た目とは違って、彼女は結構強い……。 「――だが、一人じゃ無謀だ……!」 嫌な予感を感じた私は一言呟くと、邪魔する構成員の一人をヤクザキックで蹴倒しつつ、彼女の後を追った……。 「……くそ、まさかこんな事になってまうとは……奴らをほんま甘く見とったわ。よもやここまで追い込まれるとは……」 ――場所は変わり、ここはSPTビル最上階である50階。 窓の向こうに焔の街を見下ろす絶景広がるこの場所は、実質上は憲十郎専用のスペースらしく、 豪華なペルシャ絨毯広がる部屋の彼方此方には、方々から買い集めた豪華な調度品や骨董品が所狭しと並べられていた。 そして、その中で憲十郎は部屋の端に置かれた大型の金庫を開き、中に入っている物品を掻き出している所だった。 「――けどな、頭であるワイさえ無事であれば、黒狼会は何度やって不死鳥の如く蘇えるんや。 それに金やってまだまだあるんや、部下を幾ら倒されようとも、新たに雇い直せば良いだけの話やしな。 流石の連中も、屋上のヘリで逃げてしまえば追ってはこれんやろうし」 呟きながらトランクに詰めているのは、有価証券や土地の登記書類、そして現金や金塊、宝石などの持ち運べる金目のもの。 どうやら、この男は一旦自分だけ逃げ延びた後で、ほとぼり冷めた頃に再び返り咲こうと言うハラづもりらしい。 「見ていろ、森三一家に梶組! 何時かはほえ面かかしたるからな!」 「――残念だけど、それは二度と叶わない願いよ」 「…っ!」 背に掛かった声に、思わずトランクへ物品詰めてた手を止めて、体毛を逆立てつつ振り向く憲十郎。 其処に立っていたのは、凛とした表情で長ドスを構えたゆみみの姿! 「黒狼会組長、田宮 憲十郎! 今までの分の落とし前をつける時が来たわ!」 「ぐっ……もう追いついてきおったのか! 森三 ゆみみ!!」 その姿を認め、唸りを漏らしつつずさっ、と後退りする憲十郎。 だが、憲十郎は右手をやおら懐へと突っ込むや、笑みを浮かべて言う。 「……けどな、ワイはここで終わる男やないんや! ましてや、お前のような小娘なんかにやられる気は、鼻毛の先かってないんや!」 言って、懐から取り出したのは黒い金属塊――所謂、トカレフと呼ばれるソ連製の拳銃! その構えた拳銃の銃口をゆみみの額へ向け、憲十郎は尻尾をぴんと立てて叫ぶ。 「く、来るなら来てみぃ! その途端に、その額へズドンと風穴開けたるさかいにな!」 「…………」 しかし、ゆみみは拳銃を前に引き下がる所か、 長ドスを構えたままじっと憲十郎を見据え、一歩、また一歩と憲十郎へと迫る。 無論の事、全く恐れを見せないゆみみを前に、憲十郎は酷く狼狽し、追い詰められた者特有の悲鳴に近い声で言う。 「お、おい! 拳銃なんやぞ! 撃たれたら仕舞いやねんで!? 何で逆に向かってくるねん!?」 「それが…それが如何したというのよ! この森三一家が若頭、森三ゆみみが、拳銃如きで引き下がると思ったら大間違いよ!」 「……っ!?」 可憐な少女らしからぬゆみみの気迫に圧倒され、思わず更に一歩後退りする憲十郎。 それにあわせる様に更に一歩踏み出したゆみみは、長ドスの切っ先を憲十郎へ向けながら続ける、 「それに、私は今、とっても怒ってるのよ!」 「な、なんやっ、シマを荒らした事か! それかお前らに喧嘩を売った事か?!」 「確かにそれもあるわ……私達のシマを好き勝手に荒らし、そして私達に喧嘩を売った事、それも充分に許されない事。 だけどね…私がそれ以上に怒っているのは、森三一家とは関係の無かった怜子先生を傷付けた事よ!!」 この時、憲十郎からしてみれば、啖呵を切る彼女の背景には、雷と共に荒ぶる虎か、怒れる竜が見えたのかもしれない。 その証拠に、さっきまで強気に立っていた憲十郎の尻尾は、今は見る影も無く股の間に隠れてしまっている。 無論の事ながら、恐慌状態に陥った憲十郎は震える手で拳銃を向けながら、喚くように言う 「く、く、来るなっ! 来るなやっ!? 一歩でも近付いたら撃つで!」 「撃てるものなら撃ってみなさい……その瞬間、あなたは負ける事になるわ!」 「っっ!!」 断言に近い事を言いながら更に一歩迫るゆみみ。 恐怖に染まりきった表情で、引き金にかけた指へ力を込める憲十郎。 ぱ む っ ! ――刹那、何処からか飛来する銀色の何か。直後に響く銃声! しかし、放たれた銃弾はゆみみに当る事無く、あらぬ方向へ飛び、壁に弾痕を穿つだけで終わる。 ――無論、この時には既にゆみみは動いていた! ざんっ! 「――がっ……ぎゃぁぁぁぁぁっ!? わ、ワイの、ワイの指がぁぁぁっっ!?」 一瞬の交錯、その直後には憲十郎が悲鳴を上げ、その手から拳銃を取り落とす。 見れば、憲十郎の利き手の親指の根元が真横にざっくりと斬られ、其処から紅い液体を止めど無く溢れ出していた。 これでは拳銃を撃つどころか、もはや拳銃をまともに持つ事すらも叶わないだろう。 「……大丈夫か? ゆみみ少女」 「怜子先生!」 斬られた手を抑え、苦痛の悲鳴を上げている憲十郎を余所にして、 私は 先ほど投擲した ジッポーを拾いつつ、ゆみみへ声を掛ける。 そう、あの一瞬、憲十郎が発砲する直前。 私は憲十郎が持つ拳銃へ向けてジッポーを投擲する事で、ゆみみへ向けられていた銃口の向きを若干横へ逸らしたのだ。 無論、これは口で言うほど簡単な物じゃない――実をいえば、私自身も、これが上手く行く自信なんて殆どなかった。 ……後で良く考えてみれば、下手すれば逆に銃弾がゆみみへ直撃、と言う最悪の事態も有り得たのだが、 今にも憲十郎が発砲しかねない状況で、他に何か出来る事があるかと言うと、それ以外に思い付かなかったのもまた事実。 まぁ、とにかく結果的には上手く行ったのだから、一先ず結果オーライとしておくべきか。 ――と、今は上手く行った事に喜んでいる前に、先ずやるべきは……。 「積もる話は後だ。今は、ゴミ掃除の大詰めをしなければな?」 「そうね。あそこの大きなゴミを潰さない事には、街のゴミ掃除は終わらないわ」 「ひ、ひぃっ!?」 言って、私とゆみみが向いた方には、傷ついた手を庇いながら、こそこそと逃げようとしている憲十郎の姿。 奴は私とゆみみの視線に気付くや、尻尾を丸めて悲鳴を上げて驚き、 「そ、そや! こ、ここは金で手打ち(争いを無かった事にするの意)にせーへんか! 幾ら欲しい? 一億? それとも十億か? いや、それで不満やったらこのビルの権利もつけるで!?」 財布やら指輪、腕時計などを差し出しながら、もう見苦しいまでの命乞いを始める。 ――無論、そんな物で私とゆみみが許す筈も無く、無言で一歩、また一歩と憲十郎へ迫る! 「ちょ、まちーや! 金や無かったら何が望みや!? 地位か? 名声か!?」 「……そんな物は要らん。だが、代わりに教えてやる」 「今、私達が望んでいるのは――」 それでも尚、命乞いをする憲十郎へ口々に応え、私とゆみみは同時に走り出す。そして―― 『黒狼会(お前ら)の、滅亡だぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!』 ど ぐ ぉ し ゃ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ っ っ ! ! 「げぎゃおうっ!?」 ――声を見事にハモらせつつ放った私とゆみみのダブルキックが、憲十郎の顔面へめり込んだ! 哀れ、憲十郎は床に2度バウンドした後、開いたままのトランクへと頭を突っ込ませ、その中身を派手に飛び散らせる。 其処で憲十郎は気を失ったらしく、そのままぴくりとも動かなくなった。 「見ろ、ゆみみ少女。奴の化けの皮が剥がれたぞ?」 「あら本当、黒狼会の組長ってオオカミじゃなくて、実はタヌキだったのね?」 私の指差すその先、現金やら書類やらのトランクの中身が舞う中。意識を失った憲十郎のその顔は、 両目の辺りに刻まれた私とゆみみの足跡によって、さながらタヌキのような顔となっていた。 「……終わった、な?」 「そうね、これからやるべき事はまだあるけど。一先ずは、ね?」 悪が滅びた後、私とゆみみはお互いの健闘を称える様に、互いの顔を見合わせて言う。 まぁ、本当に色々あったが、終わってしまえばなんと爽やかな事か。 ……とはいえ、身体中が痛むし、かなりの疲労感もあるが、今となってしまえばそれもまたある種の充実感である。 取り合えず、戦いも終わった事なので煙草を一服……と行きたいが、近くにゆみみが居るのでここは咥えるだけで我慢しておく。 「っ!? 大丈夫か!?」 その矢先、唐突にがくりと崩れるゆみみの身体。私は驚きつつも咄嗟に彼女を抱き止める! ――まさか、私の知らない間に何かあったのか!? 「あ、あははは……ちょ、ちょっと腰が抜けちゃった……。 面と向かってチャカ(拳銃の意)を向けられるの、久しぶりだったし……それで緊張の糸が切れて、つい……」 言って、少し恥かしそうに笑うゆみみ。 ……なんだ、驚かせてくれる。何かあったのかと本気で心配したじゃないか……。 その感情が尻尾の動きに出ていたのだろうか、彼女は私を安心させようと笑顔を浮かべて 「でもね、私、怜子先生がきっと助けてくれるって信じてた。 だから、拳銃を向けられても強気でいる事が出来た。そして一歩も退かずに戦う事が出来たの」 「……だからと言って、拳銃持った相手に、真っ向から挑むのは少し無謀過ぎだ。反省しろ。 あの時は本気で如何なるかと思ったんだぞ?」 「あはは、ごめんごめん」 しかし、私から注意混じりに頭を軽く小突かれ、朗らかに笑って謝って立ちあがるゆみみ。 その様子を端から見れば、多分、無茶をした生徒とそれを窘める教師の様に見えたのかもしれない。 と、其処で私の耳に届く誰かの足音、この足音の歩調からすると確か…… 「おーい、お嬢、そして獅子宮センセ。そっちは終わったところかい?」 フロアの入り口に現れたのは私の予想した通り、長ドス片手の綾近の姿。 ゆみみと私が離れた後、彼は相当な数の敵を倒していたのだろう、殆ど無傷ではあるが服の所々が返り血で紅く染まっている。 しかしゆみみはそんな血塗れの舎弟に何ら嫌悪感を見せる事無く、至って明るいノリでサムズアップして言う、 「うん! 怜子先生と一緒にバッチリ叩きのめしたわ!」 「おおそーかそーか、すげ―じゃんお嬢! ……にしても獅子宮センセもやるじゃねえか、見直したぜ?」 「む…私を誉めても何も出ないぞ……?」 「へへっ、別に誉めてねーよ。素直な感想を言っただけだって、な? センセ?」 思わず難しい顔して尻尾くねらせる私に、綾近は私の背中をパンパンと軽く叩いて笑って見せる。 むぅ……これは彼なりに私の事を認めた、と言う事なのだろうか……? 「所で綾近、そっちの方は如何なの?」 「おう、そうだったそうだった。こっちの方も、もうバッチリって所!」 「――だが生憎、何人か逃げ足の早ぇのを取り逃がしちまったがな?」 ゆみみの問いに綾近がサムズアップして答えた所で、横から割って入る声。 「銀虎、そして皆!」 「…ちぇ、それ言うなよって、銀虎」 「その様子だと、本当に終わったのだな」 振り向いてみれば、其処には銀虎を始めとする森三一家と梶組の面々。 やはり彼らも綾近と同じく、相当な数の敵を倒していたらしく、ほぼ無傷ではあるが服の所々には返り血が……。 ただ、その中で日向だけは、何故かやたらと息を切らしている上に襟元の辺りが血に染まっているが、其処は気にしない。 そして、ゆみみは揃った全員をざっと見回した後、意気揚揚と声を上げる。 「よぉし、ならここは大勝利と言う事で、皆で勝ち鬨を上げるわよ!」 「その前にお嬢、一つだけ言うべき事が……」 「へ? なに? 唯鶴」 しかし唯鶴に待ったを掛けられ、ゆみみはきょとんとした顔で聞き返す。 唯鶴は深刻そうな表情浮かべ、全員の方をざっと指差し、 「……これから警察が来るまでに全員、服を着替えてビルからバックレなくちゃならないんです」 『……あ゛』 これからやるべき事の大変さを理解したのか、その場の全員がほぼ同時に声を上げた。 ……どうやら、私達が勝利の余韻に浸れるのは、まだまだ先の事になりそうだ……。 ――――――――――――【終劇】そしてエピローグへ続く―――――――――――
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No.0302 カード名:力石 徹/天才ボクサー/男 パートナー:白木 葉子/白木ボクシングジム会長/女 レベル:3/攻撃力:3500/防御力:5000 【格闘】【水】「おわった‥‥なにもかも‥‥‥‥」 [自]〔リング〕このカードがリングからリタイヤ置場に置かれた時、あなたのリタイヤが相手より多いなら、そのフェイズを終了する。 レアリティ:R 作品名:週刊少年マガジン「あしたのジョー」
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「ティーンウルフ2」 【ボクシング、一方的】 筋肉度 ★★★★ 腹打ち度 ★★★★ アマチュア度 ★★★★ この映画は一度見ておいてもいいですね。 主人公はひょろひょろの男の子ですが、 ライバルになるイケメン男は超マッチョ。 そんな高校生いねーだろ、と言いたくなるくらいです。 主人公とも体格差ありすぎで、あまりにも不自然ですが、 腹打ちシーンはかなりあります。 一つだけ残念なのがアマチュアの試合なので、上半身裸では無い事。 アマチュアのボクシングが好きな人はいいかもしれないですね。 話としては狼男になる能力を持つ男の子が、 最後には能力を使わずに自力でボクシングの試合に挑むというもの。 とにかく相手の男は最高です。こんなマッチョに殴られたい。 戻る 【用語説明】 「ボクシング」 ボクシングの試合、ボクシングスタイルのファイトがある。 「ムエタイ」 ムエタイ・キックボクシングスタイルのファイトがある。 「ストリート」 路上の喧嘩、ストリートファイトがある。 「軍人」 軍人のファイト、トレーニングがある。 「リンチ」 主人公などが集団にやられてるシーンがある。 「一方的」 主人公などが一方的にやられるシーンがある。 「上半身裸」 どちらかが上半身裸になっているファイトがある。 「拷問」 縄や手錠で体を拘束され拷問をかけられるシーンがある。 「人質」 主人公が人質を取られている設定がある。 「八百長」 主人公が八百長試合をするシーンがある。 「賭けファイト」金を掛けたファイトがある。 「トレーニング」主人公などがトレーニングしているシーンがある。
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baovasn /// / ボクシング bao\vasn \ 16 seren klel 拳の格闘技 \ ボクシング、拳闘 \ 2 ボクサー \ [ yuo] \ onとボクシングをする \ [ ansiel ] \ ボクサー \ [ ova ] \ la as-e baovasn 彼はボクシングをやっている \